tkira26's diary

吉良貴之@法哲学のブログ。

2019-01-01から1年間の記事一覧

A. ヴァーミュール(吉良貴之 訳)『リスクの立憲主義』(勁草書房、2019年12月)

エイドリアン・ヴァーミュール(吉良貴之 訳)『リスクの立憲主義』(勁草書房、2019年12月)という訳書が出版されました。 出版社ページで詳細目次を見ることができます。 分類としてはアメリカ憲法学の本ですが、憲法基礎理論・憲法思想史的な内容なので、…

独学の限界について

来年度、青山学院大学でキリスト教法思想史(科目名は「キリスト教と法思想」前期・金曜4限)を担当する予定なのですが(なんていうと無謀に思われるかもしれませんが、基本的には普通の法思想史で、随所でキリスト教との関係を学生と一緒に考えていく、とい…

イドリース「肉の家」

中東政治研究の池内恵先生がツイッターで、ユースフ・イドリース「肉の家」という小説を紹介されていた(Yusuf Idris, Bait min Lahm, 1971)。イドリースは現代エジプトを代表する作家である。翻訳が入っているのはこちらの『集英社ギャラリー 世界の文学 (…

トニ・モリスン『パラダイス』から

アメリカのノーベル文学賞作家、トニ・モリスン氏が88歳で亡くなったとのこと。私が2冊、翻訳に関わったドゥルシラ・コーネル先生はモリスンの小説がお好きで、白人男性に対する他者としての女性たちや黒人たちのイメージの源泉として、モリスンの小説のシー…

木庭顕「日本国憲法9条の知的基礎」(『法学セミナー』2019年8月号)メモ

今回の9条論は『憲法9条へのカタバシス』(みすず書房、2018年)の9条関係の部分をもとにした講演録ですが、石川健治「民主主義・立憲主義・平和主義:憲法に自衛隊を明記するとはどういうことか」(『法律時報』91巻2号、2019年)など最新文献への参照が加…

綾部六郎・池田弘乃 編『クィアと法』(日本評論社、2019年6月)

先日の日本女性学会で刊行前合評会(?)を行った、綾部六郎・池田弘乃 編『クィアと法』(日本評論社、2019年6月)が刊行された。私はそこでコメンテーターとして若干の問題提起を行ったが、以下ではそれをもとに、本書全体の意義について述べてみたいと思…

ライプニッツ『モナドロジー』90節・試訳

岩波文庫の新訳『モナドロジー』の最終節、どうもしっくりこないので訳し直してみた。意志と因果と倫理、三位一体の予定調和を賛美せよ。 90. ついにこの完全な統治のもと、よい行いは必ず報われ、悪い行いは必ず罰せられる。すべてはよい人々のよい生へと落…

映画「ビリーブ 未来への大逆転(On the Basis of Sex)」

映画「ビリーブ 未来への大逆転」(2018年、アメリカ)を観てきました。脚本がネットで公開されているので(こちら:PDF)、観客はそれを7回読んでいることが当然の前提とされています。したがってネタバレには配慮しないので、そういうことを気にする方は…

「法と法学の発展」『法学入門』(北樹出版、2019年4月)参考文献 (4完)

3の続きです。 5. 「法典論争」と19世紀ドイツの法学 「法」が紙に書かれたものとして存在することは、現代日本の私たちにとっては当然のことのように思われますが、歴史的には必ずしもそうではありません。個別具体的な判断の積み重ねとしての法原理が法律…

「法と法学の発展」『法学入門』(北樹出版、2019年4月)参考文献 (3)

2の続きです。 4. 「近代法」のめばえ さて、教科書の都合により、時代が1500年ぐらいすっ飛んで「近代」が始まります。そこはそういうものなのでご理解ください。すみません。 もちろん、ヨーロッパ中世の法思想にもいろいろ面白いものがあるので、いやそん…

「法と法学の発展」『法学入門』(北樹出版、2019年4月)参考文献 (2)

1の続きです。 3. 古代ギリシャ・ローマの法思想 西洋思想の基本的なことはほとんど古代ギリシャ・ローマの時代に、萌芽的な形であれ現れているといえます。なので当時の思想から学ぶのが西洋法思想史の始まりとなりますが、なんといっても2000年以上前のこ…

「法と法学の発展」『法学入門』(北樹出版、2019年4月)参考文献 (1)

稲正樹・寺田麻佑ほか『法学入門』(北樹出版、2019年4月)に、「法と法学の発展」という章を執筆しました。内容的には西洋法思想史のおおざっぱな流れですが、歴史を学ぶことの意義とか、法学において学説を学ぶことがなぜ重要かとか、そういったことにも多…