tkira26's diary

吉良貴之@法哲学です。自己紹介はこちらから: http://jj57010.web.fc2.com

リバタリアンはパンデミックにどう対応するか?

というと、いかにも食い合わせが悪そうである。明日、世界が滅ぶとも自由を尊重せよという過激派はおそらくそんなにおらず、国防や警察の一環として公衆衛生を位置づける穏健な論者が多そうな感じ。

エボラ出血熱のときの議論をもとにざっと分けると、1)そこでの検疫や隔離は科学的エビデンスに基づいて最小限であるべき、ぐらいか、2)自由と公衆衛生を対立させる問題設定そのものが不適切であって、衛生は自由の条件である、みたいに論じる方向がある。1はたいした中身がないし、2は自由を実質化する邪悪なものである。こんな選択を迫られるときは問いの立て方が間違っているわけだが、さてどうすべきか。

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A. ヴァーミュール(吉良貴之 訳)『リスクの立憲主義』(勁草書房、2019年12月)

 エイドリアン・ヴァーミュール(吉良貴之 訳)『リスクの立憲主義』(勁草書房、2019年12月)という訳書が出版されました。 出版社ページで詳細目次を見ることができます。

  分類としてはアメリ憲法学の本ですが、憲法基礎理論・憲法思想史的な内容なので、もちろん法哲学を含め、いろんな分野の方に面白く読んでいただけるのではないかと思います。内容的には、権力の暴走に対する「予防」に偏りがちだったこれまでの立憲主義から、権力の最適なパフォーマンスを引き出すための権限配分=構成を目指すものとしての立憲主義を構想しています。その議論は現在の日本国憲法をめぐる議論にも多くの示唆を与えることでしょう。司法審査に消極的だったりして、やや保守的な議論が多いのは確かですが、単純に行政権への権力集中を説くようなものではありません。憲法をひとつのシステムとして捉え、意思決定論・組織管理論の視点でもって全体を見渡しながらリスク計算を行おう、という穏当な主張がなされています。

 ヴァーミュール氏の紹介と、本書のおおまかな内容、そして若干の問題提起を書いた訳者あとがきが勁草書房サイトで公開されています。ぜひご覧ください。

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 ジュンク堂書店池袋本店では、井上達夫先生の『立憲主義という企て』(東京大学出版会、2019年)と隣に並べていただいておりました。指導の先生の本の隣というのも感慨深いものがありますね。

独学の限界について

 来年度、青山学院大学キリスト教法思想史(科目名は「キリスト教と法思想」前期・金曜4限)を担当する予定なのですが(なんていうと無謀に思われるかもしれませんが、基本的には普通の法思想史で、随所でキリスト教との関係を学生と一緒に考えていく、という感じになります)、それにはキリスト者であることが必要とのこと。で、その証拠に受洗時の心境を書いたもの(「救いの証」)を提出したのですが、せっかくなのでここにも置いときます(吉良貴之「独学の限界について」、日本基督教団・池袋西教会『復活の朝』、2015年2月号)。

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イドリース「肉の家」

 中東政治研究の池内恵先生がツイッターで、ユースフ・イドリース「肉の家」という小説を紹介されていた(Yusuf Idris, Bait min Lahm, 1971。イドリースは現代エジプトを代表する作家である。翻訳が入っているのはこちらの『集英社ギャラリー 世界の文学 (20) 中国・アジア・アフリカ』(集英社、1991年)ぐらいのようなので、とりあえず購入してみた。魯迅クッツェーのような有名な作家の代表作から、現代朝鮮の多様な作家のものまで、いろいろ収録されていてお得である(「中国・アジア・アフリカ」なんて詰め込めすぎだが、それはそれとして)。

 それで「肉の家」を読んでみたのだが、わりあい面白かったので以下に感想を書いてみる。なお、池内先生が紹介されていた文脈とはズレがあるように思ったし、他の方への批判的内容も含まれているのでツイートへのリンクは貼らない。

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集英社ギャラリー 世界の文学 (20) 中国・アジア・アフリカ 明文・ほか/狂人日記、阿Q正伝・ほか/憩園/寒い夜/子夜/夷狄を待ちながら/マルグディに来た虎/黒い警官・ほか/花婿・ほか

集英社ギャラリー 世界の文学 (20) 中国・アジア・アフリカ 明文・ほか/狂人日記、阿Q正伝・ほか/憩園/寒い夜/子夜/夷狄を待ちながら/マルグディに来た虎/黒い警官・ほか/花婿・ほか

 
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トニ・モリスン『パラダイス』から

アメリカのノーベル文学賞作家、トニ・モリスン氏が88歳で亡くなったとのこと。私が2冊、翻訳に関わったドゥルシラ・コーネル先生はモリスンの小説がお好きで、白人男性に対する他者としての女性たちや黒人たちのイメージの源泉として、モリスンの小説のシーンを印象的に取り上げている。以下は『パラダイス』の幻想的な場面から。既存訳を参考にしたが、訳し直した。

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木庭顕「日本国憲法9条の知的基礎」(『法学セミナー』2019年8月号)メモ

 今回の9条論は『憲法9条へのカタバシス』(みすず書房、2018年)の9条関係の部分をもとにした講演録ですが、石川健治「民主主義・立憲主義・平和主義:憲法自衛隊を明記するとはどういうことか」(『法律時報』91巻2号、2019年)など最新文献への参照が加えられています。

 相変わらず難解な部分も多いのですが、9条を直接に「占有」原理に基づかせている点が最大の特徴です。「占有という原理は、凡そ理由を切り、どんな理由であろうと現に占有している分に対して実力を行使することは認めません」(58頁)。これがそのまま9条1項の内容であるという。

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綾部六郎・池田弘乃 編『クィアと法』(日本評論社、2019年6月)

 先日の日本女性学会で刊行前合評会(?)を行った、綾部六郎・池田弘乃 編『クィアと法』(日本評論社、2019年6月)が刊行された。私はそこでコメンテーターとして若干の問題提起を行ったが、以下ではそれをもとに、本書全体の意義について述べてみたいと思う。写真はそのWSの様子(左から執筆者の綾部、志田、池田、コメンテーターの松田さおりの各氏、そして私)。

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日本女性学会WS「「クィアと法」の可能性を考える」(2019.6.16、一橋大学

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ライプニッツ『モナドロジー』90節・試訳

岩波文庫の新訳『モナドジー』の最終節、どうもしっくりこないので訳し直してみた。意志と因果と倫理、三位一体の予定調和を賛美せよ。

 

90. ついにこの完全な統治のもと、よい行いは必ず報われ、悪い行いは必ず罰せられる。すべてはよい人々のよい生へと落ち着く。よい人々は、この偉大な国にあって不満をもつこともなく、自分の義務を果たしたうえで神の摂理を信じ、万物の創造者たる神をしかるべく愛し、模倣する。愛すべき人々の幸福のうちによろこびを見出すような、真正で純粋なる愛の本性によって神の完全性に思いをはせ、称賛する。だから賢明で有徳な人々は、予定されている、つまり先立つ神の意志にかなうように思われるすべてのことに力を尽くすのだ。しかしまた、神の秘められた、それ自体が結果であって決定的であるような意志によって現実にもたらされることにも満足する。というのも、もし我々が世界の秩序を十分に理解したならば、その秩序は我々のうち最も賢い者のいかなる望みさえも凌駕しており、これ以上によく作り変えることなど不可能であると思い知るからである。これは全体について一般に不可能というだけでなく、万物の創造者との正しい関係を有する限り、個体としての我々各自もそうである。正しい関係とは、創造者を単に人間存在の製作者かつ動力因とみなすのではなく、我々の支配者かつ目的因とみなすものである。創造者は我々の意志にとって完全な目的であるべき存在、そして我々を幸福にしうる唯一の存在なのである。

映画「ビリーブ 未来への大逆転(On the Basis of Sex)」

映画「ビリーブ 未来への大逆転」(2018年、アメリカ)を観てきました。脚本がネットで公開されているので(こちら:PDF)、観客はそれを7回読んでいることが当然の前提とされています。したがってネタバレには配慮しないので、そういうことを気にする方は以下読まないでください。

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映画「ビリーブ 未来への大逆転」
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「法と法学の発展」『法学入門』(北樹出版、2019年4月)参考文献 (4完)

3の続きです。

5. 「法典論争」と19世紀ドイツの法学

「法」が紙に書かれたものとして存在することは、現代日本の私たちにとっては当然のことのように思われますが、歴史的には必ずしもそうではありません。個別具体的な判断の積み重ねとしての法原理が法律家共同体になんとなく共有されているとか、各地でまったく異なった慣習法が使われているとか、そういった状況で、国全体で統一した法典を作るには多くの苦労がありました。 

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「法と法学の発展」『法学入門』(北樹出版、2019年4月)参考文献 (3)

2の続きです

4. 「近代法」のめばえ

さて、教科書の都合により、時代が1500年ぐらいすっ飛んで「近代」が始まります。そこはそういうものなのでご理解ください。すみません。

もちろん、ヨーロッパ中世の法思想にもいろいろ面白いものがあるので、いやそんなに飛ばされては困る、という方は自習してください。1つ選ぶとしたら、トマス・アクィナス神学大全』(翻訳で全45巻)かな(詳細はこちら)。

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「法と法学の発展」『法学入門』(北樹出版、2019年4月)参考文献 (2)

1の続きです。

 3. 古代ギリシャ・ローマの法思想

西洋思想の基本的なことはほとんど古代ギリシャ・ローマの時代に、萌芽的な形であれ現れているといえます。なので当時の思想から学ぶのが西洋法思想史の始まりとなりますが、なんといっても2000年以上前のことです。

2000年以上前の人々に「おまえ間違ってるぞ!」と言えてしまうのが(そしてそれが最先端の研究になってしまうのが)面白いところです。しかし、現代の価値観で過去について議論することには慎重でなければなりません。

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「法と法学の発展」『法学入門』(北樹出版、2019年4月)参考文献 (1)

稲正樹・寺田麻佑ほか『法学入門』(北樹出版、2019年4月)に、「法と法学の発展」という章を執筆しました。内容的には西洋法思想史のおおざっぱな流れですが、歴史を学ぶことの意義とか、法学において学説を学ぶことがなぜ重要かとか、そういったことにも多少触れています。また、思想史を踏まえて取り組むべき、古くて新しい問題への橋渡しといったことも意識したつもりです。

法学入門

法学入門

 

本章で触れた、法思想史に関わる参考文献を以下でいくつか紹介します。入門ということを考慮し、基本的には新書や文庫など、安価で手に入りやすいものを中心にしています。

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吉良貴之・蝶名林亮 編『世代間不均衡下の都市倫理』(第一生命財団研究助成報告書)

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吉良貴之・蝶名林亮[編]『世代間不均衡下の都市倫理』(第一生命財団研究助成報告書)ができあがりました。研究プロジェクトのページはこちらです。報告書では蝶名林さんと私の論文のほか、何名かの若い方に学術的コラムを書いてもらい、面白い仕上がりになったと思います。非売品ですが、読んでくださる方には差し上げます。

[研究メンバー](所属は執筆時)
代表:吉良 貴之(宇都宮共和大学法哲学
分担:蝶名林 亮(創価大学倫理学
協力:高木 智史(一橋大学大学院、法哲学
協力:酒井 光一(オックスフォード大学大学院、考古学)
協力:真殿 琴子(京都大学大学院、イスラーム思想研究)
協力:南部 健人(北京大学大学院、近代中国文学)
協力:高橋 慧 (ミネソタ大学博士研究員、物理学)

[目次]

 1.(報告)吉良貴之「概要と実施状況」
 2.(論文)吉良貴之「世代間不均衡下の都市倫理」
 3.(論文)蝶名林亮「都市保存についての倫理的諸問題:都市環境倫理学的な探求の一事例として」
 4.(コラム)酒井光一「都市と景観:オックスフォードの歴史の中に暮らして」
 5.(コラム)真殿琴子「アンカラという都市:諸文明の遺産と近代化政策の邂逅のなかで」
 6.(コラム)南部健人「ふたりの作家の見つめた北京:老舎とイーユン・リー」
 7.(コラム)高橋慧「科学都市の危険性?」

卒業生向けカント読書会

 最近は月に1回ぐらいで、卒業生向けの読書会をやっています。

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 読んでいるのはカントの『判断力批判』で、基本的には岩波文庫を使っていますが、必要に応じてドイツ語や英語も確認しています。1回が約70ページずつ、1年ぐらいかけて終わればいいかな、という感じのゆったりしたペースです。

 就職して数年がたっていろいろ慣れてきたところで、また知的刺激を受けたい、という思いに応えられるのは教員冥利につきることです。最近はいわゆる「リカレント教育」というのも重視されていて、18歳人口が減少するなか、大学教育のあり方も見直していかなければなりません。……というと大きな話になりますが、それはさておき、私の勉強にもなるし、同窓会的な感じで楽しいし、というところで、できる範囲で続けていければいいかなと思っています。

 これまでの配布資料はこちらに置いてあります。