碧海純一『法哲学概論』は1959年の初版刊行以来、何度かの改版があり、内容の異同があることで知られている。大きなものでは1964年の「新版」、1973年の「全訂第一版」、1989年には「全訂第二版」があり、それぞれ修正がなされている。確認できる最新版は2000年の「全訂第二版補正版」であり、そこでもいくつかの重要な修正がなされたと記されている。
本書は日本の法哲学界に大きな影響を与えたものであるが、各版・刷の異同を確認するのは骨の折れる作業である。しかし「初期のものほど面白い」という評判が流布していることもあって、実際のところどうなのか、いくぶん神話的な書という雰囲気さえある。そこでこのブログでは、私が確認した限りでの各版の異同(各刷にも小規模な修正あり)について、気づいたところをメモしておく。自著が謎めいた書となることは碧海本人も本意ではないだろう。
初版(1959年)目次
はしがき
第一章 序論 1-32
一 法哲学とは何か――問題の提起 1
二 形而上学の批判 10
三 哲学と科学 15
四 法哲学の定義 22
五 法哲学の任務 24
第二章 法の概念 33-72
一 法の概念についての従来の論争 33
二 法の概念についての論議の方法論的性質 37
三 従来の論争における評価的要素 47
四 〈法〉の定義 54
五 関係諸概念の定義 66
六 「法の概念」の問題についての結語 68
第三章 法の社会的機能 73-108
一 社会秩序と社会統制 73
二 記号とその社会統制作用 78
三 社会統制の記号的技術としての法 82
四 近代市民法体制のもとでの社会統制 88
第四章 意味と解釈 109-150
一 序説 109
二 ことばおよび文章の意味 116
三 明晰さ 128
四 解釈 140
第五章 法の解釈と適用 151-185
一 序説 151
二 文理解釈・体系的解釈・社会学的解釈 159
三 体系的解釈 160
四 社会学的解釈 163
五 類推 166
六 補充的法源の援用(一)(慣習) 173
八 補充的法源の援用(三)(条理) 180
第六章 法解釈学とその科学性 186-237
一 序説 186
二 法解釈学の認識対象 188
三 法解釈学の体系性 189
四 法解釈学の諸命題の検証可能性 195
五 法解釈学的認識の純粋性 202
六 法解釈学者と法実務家 209
七 概念法学と自由法論 213
八 裁判の準立法的機能 220
九 結論―社会統制のための応用科学としての法解釈学 223
第七章 法の経験科学 238-271
一 社会科学における理論と実践 238
二 自然科学と社会科学―経験科学の根本的同質性 250
三 法社会学 255
四 法史学 265
第八章 法価値論 272-285
一 法価値論の諸類型 272
二 法価値論上の客観主義(一)―直観主義 275
三 法価値論上の客観主義(二)―自然主義 278
四 法価値論上の主観主義 279
五 規範的法価値論の可能性と必要性 282
参考文献
事項索引
人名索引
定義表(別紙)
- 目次表記はすべて原文ママ。
- 初版(1959年)、第二版(1960年)、第三版(第一刷1961年、第二刷1962年)では、目次やページ数はすべて同じである。第三版には「第三版への序」が加えられており(第二版にはない)、「必要な最小限度の部分的訂正をほどこした」と書かれている。しかし、行が変わるほどの修正はない。一言一句を照らし合わせたわけではないが、初版から第三版までについては、ごく軽微な修正がなされたのみであり、内容的に重要な修正はないと見てよいだろう。
新版(1964年)
初版への序より
新版への序
第一章 序論 1-44
一 法哲学とは何か
(1) 予備的考察
(2) 法哲学の三部門
(3) 本書であつかわれる問題領域
二 現代経験主義哲学の興隆 12
三 形而上学の批判 23
四 哲学と科学 29
五 いわゆる仮象問題とその分析 37
第二章 法の概念 45-86
一 法の概念についての従来の論争 45
二 法の概念についての論議の方法論的性質 49
三 従来の論争における評価的要素 59
四 〈法〉の定義 66
五 関係諸概念の定義―試論 79
六 「法の概念」の問題についての結語 81
第三章 法の社会的機能 87-122
一 社会統制 87
二 記号とその社会統制作用 91
三 社会統制の記号的技術としての法 96
四 近代市民法体制のもとでの社会統制 101
五 近代市民法体制の修正 109
第四章 意味と解釈 123-164
一 序説 123
二 ことばおよび文章の意味 129
三 明晰さ 141
四 解釈 153
第五章 法の解釈と適用 165-200
一 序説 165
二 文理解釈・体系解釈・社会学的解釈 174
三 体系的解釈 175
四 社会学的解釈 178
五 類推 180
六 補充的法源の援用(一)(慣習) 188
八 補充的法源の援用(三)(条理) 194
第六章 法解釈学の性格と任務 201-255
一 序説 201
二 認識の客観性とは何か 204
三 法解釈学における認識の客観性(一)―論理的・形式的側面 209
四 法解釈学における認識の客観性(二)―経験的・実質的側面 213
五 法解釈学における認識と実践 220
六 法解釈学者と法実務家 227
七 概念法学と自由法論 231
八 裁判の準立法的機能 237
九 結論―社会統制のための応用科学としての法解釈学 240
第七章 法の経験科学 256-304
一 社会科学における理論と実践 256
二 自然科学と社会科学―経験科学の根本的同質性 269
三 法社会学 291
四 法史学 297
第八章 法価値論 305
一 法価値論の諸類型 305
二 自然主義の法値価論 310
三 直観主義の法価値論 312
四 価値情緒説の法価値論 315
五 規範的法価値論の可能性と必要 318
参考文献
事項索引/人名索引
- 「著者は、現在では、こうした[認識の源泉と根拠を経験によらない直観に求める伝統的哲学を形而上学的として批判する]論理実証主義の立場はやや行きすぎであり、直観に対して認識の一源泉としての地位をも拒むことは、かえってわれわれの科学的探求のスコープを狭くするのではないか、と考えるようになった」(新版への序(1964年9月)。強調は原文では傍点。[]補足は引用者)。
- 第一章はほぼ全部、新しく書き下ろし。第六章・第七章に大幅加筆。
全訂第一版(1973年)
第一章 序論
一 法哲学とは何か
1 予備的考察
2 法哲学の三部門
3 本書であつかわれる問題領域
二 本書における著者の基本的視点
(一)真理の探求と知的廉直 (二)客観性の追求 (三)修正主義的認識論 (四)「合理論」と経験論との結合 (五)言語分析の重視 (六)合理主義の限界とその倫理的前提との自覚
三 哲学と科学
四 いわゆる仮象問題とその分析
第二章 法の概念
一 法の概念についての従来の論争
二 法の概念についての従来の論議の方法論的性質
三 従来の論争における評価的要素
四 「法」の定義
第三章 法の社会的機能
一 社会統合
二 社会統制手段としての法
三 近代市民法体制のもとでの社会統制
第四章 記号の意味と解釈
一 記号体系としての言語とその社会的機能
二 物神的言語観
三 意味の問題-記号とその指示機能
四 語の意味と「概念」
五 文の意味と「命題」
六 「明晰さ」をめぐる諸問題
第五章 法の解釈と適用
一 序説
二 文理解釈・体系的解釈・社会学的解釈
三 体系的解釈
四 社会学的解釈
五 類推
六 補充的法源の援用(一)(慣習)
八 補充的法源の援用(三)(条理)
第六章 法解釈学の性格と任務
一 序説
二 認識の客観性とは何か
三 法解釈学における認識の客観性(一)-論理的・形式的側面
四 法解釈学における認識の客観性(二)-経験的・実質的側面
五 法解釈学における認識と実践
六 法解釈学者と法実務家
七 概念法学と自由法論
八 裁判の準立法的機能
九 結論-社会統制のための応用科学としての法解釈学
第七章 法の経験科学
一 理論と実践
二 マックス・ヴェーバーによる「没価値性」の主張
三 自然科学と社会科学
四 法社会学
第八章 正義の諸問題
一 序説
二 正義理論の二つの分野-規範的法価値論メタ法価値論
三 メタ法価値論の諸類型
四 自然主義
五 直観主義
六 自然主義ファラシーの問題
七 価値情緒説(一)
八 価値情緒説(二)-大陸における価値相対主義
十 むすび
基礎文献解題/参考文献
事項索引/人名索引
- 第八章を全面的に書き換え、第一章~第四章に大幅加筆、ほか随所を修正。
- 全訂第一版第七刷の序には、岡崎匠氏(東京大学法学部生)から「誤植その他について有益な示唆を受けた」と謝辞がある。(1976年8月)
- 「全訂第一版十三刷へのあとがき」では、(1) 巻末に文献の補遺を付け加えた、(2) 各章の註に若干手を加えた、と述べられている。ほか、丸山邦正氏・小林忠治氏(弘文堂編集部)、井上達夫氏(東京大学教養学部助手)への謝辞あり。(1982年3月)
- 参照したのは第16刷(1985年)。
全訂第二版(1989年)
- 第八章「正議論の歴史」(小林公執筆)、第九章「現代の正義論」(森村進執筆)が追加された。なお、初版はしがきでは「この書物では、慣例をやぶって、法思想史についての叙述はすべて割愛し、また、法価値論に関しても論述をその方法論に限局した。」(強調は原文では傍点)と述べられていた。
全訂第二版補正版(2000年)
第一章 序論
一 法哲学とは何か
1 法哲学の沿革
2 西洋法思想史における法の観念
3 日本の法哲学の西欧的背景
5 法哲学の三部門
6 本書で扱われる問題領域
二 本書における著者の基本的視点
三 哲学と科学
第二章 法の概念
一 法の概念についての従来の論争
二 法の概念についての従来の論議の方法論的性質
三 従来の論争における評価的要素
四 「法」の定義
第三章 社会統合と言語
一 人間における社会統合の特色
二 社会化と社会統制-統合過程の二側面
三 言語と社会化
四 文明社会における言語と社会統合
五 法による社会統制と言語
第四章 記号の意味と解釈
一 記号体系としての言語とその社会的機能
二 物神的言語観
三 意味の問題-記号とその指示機能
四 語の意味と「概念」
五 文の意味と「命題」
六 「明晰性」をめぐる諸問題
第五章 法解釈学の性格と任務
一 序説
二 認識の客観性とは何か
三 法解釈学における認識の客観性(一)-論理的・形式的側面
四 法解釈学における認識の客観性(二)-経験的・実質的側面
五 法解釈学における認識と実践
六 概念法学と自由法論
七 裁判の準立法的機能
八 結論-社会統制のための応用科学としての法解釈学
第六章 法の経験科学
一 理論と実践
二 マックス・ヴェーバーによる「没価値性」の主張
三 自然科学と社会科学
四 法社会学
第七章 正義論の基礎―メタ倫理学の諸問題
一 序説
二 正義理論の二つの分野-規範的法価値論メタ法価値論
三 メタ法価値論の諸類型
四 自然主義
五 直観主義
六 自然主義ファラシーの問題
七 価値情緒説(一)
八 価値情緒説(二)-大陸における価値相対主義
十 むすび
第八章 正議論の歴史(小林公)
一 古代ギリシア・ローマの正義論
二 中世自然法論
三 近世自然法論
四 カントとヘーゲル
第九章 現代の正義論(森村進)
一 自然法の最小限の内容
二 正義と功利主義
三 今日の正義論-2000年まで
参考文献
基礎文献解題
人名・事項索引