A. ヴァーミュール(吉良貴之 訳)『リスクの立憲主義』(勁草書房、2019年12月)
エイドリアン・ヴァーミュール(吉良貴之 訳)『リスクの立憲主義』(勁草書房、2019年12月)という訳書が出版されました。 出版社ページで詳細目次を見ることができます。
分類としてはアメリカ憲法学の本ですが、憲法基礎理論・憲法思想史的な内容なので、もちろん法哲学を含め、いろんな分野の方に面白く読んでいただけるのではないかと思います。内容的には、権力の暴走に対する「予防」に偏りがちだったこれまでの立憲主義から、権力の最適なパフォーマンスを引き出すための権限配分=構成を目指すものとしての立憲主義を構想しています。その議論は現在の日本国憲法をめぐる議論にも多くの示唆を与えることでしょう。司法審査に消極的だったりして、やや保守的な議論が多いのは確かですが、単純に行政権への権力集中を説くようなものではありません。憲法をひとつのシステムとして捉え、意思決定論・組織管理論の視点でもって全体を見渡しながらリスク計算を行おう、という穏当な主張がなされています。
ヴァーミュール氏の紹介と、本書のおおまかな内容、そして若干の問題提起を書いた訳者あとがきが勁草書房サイトで公開されています。ぜひご覧ください。
ジュンク堂書店池袋本店では、井上達夫先生の『立憲主義という企て』(東京大学出版会、2019年)と隣に並べていただいておりました。指導の先生の本の隣というのも感慨深いものがありますね。
イドリース「肉の家」
中東政治研究の池内恵先生がツイッターで、ユースフ・イドリース「肉の家」という小説を紹介されていた(Yusuf Idris, Bait min Lahm, 1971)。イドリースは現代エジプトを代表する作家である。翻訳が入っているのはこちらの『集英社ギャラリー 世界の文学 (20) 中国・アジア・アフリカ』(集英社、1991年)ぐらいのようなので、とりあえず購入してみた。魯迅やクッツェーのような有名な作家の代表作から、現代朝鮮の多様な作家のものまで、いろいろ収録されていてお得である(「中国・アジア・アフリカ」なんて詰め込めすぎだが、それはそれとして)。
それで「肉の家」を読んでみたのだが、わりあい面白かったので以下に感想を書いてみる。なお、池内先生が紹介されていた文脈とはズレがあるように思ったし、他の方への批判的内容も含まれているのでツイートへのリンクは貼らない。
集英社ギャラリー 世界の文学 (20) 中国・アジア・アフリカ 明文・ほか/狂人日記、阿Q正伝・ほか/憩園/寒い夜/子夜/夷狄を待ちながら/マルグディに来た虎/黒い警官・ほか/花婿・ほか
- 作者: 金東仁,魯迅,巴金,茅盾,J・M・クッツエー,R・K・ナーラーヤン,Y・イドリース,マハフーズ,川村二郎,菅野昭正,篠田一士,原卓也
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1991/06/20
- メディア: 単行本
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ライプニッツ『モナドロジー』90節・試訳
岩波文庫の新訳『モナドロジー』の最終節、どうもしっくりこないので訳し直してみた。意志と因果と倫理、三位一体の予定調和を賛美せよ。
90. ついにこの完全な統治のもと、よい行いは必ず報われ、悪い行いは必ず罰せられる。すべてはよい人々のよい生へと落ち着く。よい人々は、この偉大な国にあって不満をもつこともなく、自分の義務を果たしたうえで神の摂理を信じ、万物の創造者たる神をしかるべく愛し、模倣する。愛すべき人々の幸福のうちによろこびを見出すような、真正で純粋なる愛の本性によって神の完全性に思いをはせ、称賛する。だから賢明で有徳な人々は、予定されている、つまり先立つ神の意志にかなうように思われるすべてのことに力を尽くすのだ。しかしまた、神の秘められた、それ自体が結果であって決定的であるような意志によって現実にもたらされることにも満足する。というのも、もし我々が世界の秩序を十分に理解したならば、その秩序は我々のうち最も賢い者のいかなる望みさえも凌駕しており、これ以上によく作り変えることなど不可能であると思い知るからである。これは全体について一般に不可能というだけでなく、万物の創造者との正しい関係を有する限り、個体としての我々各自もそうである。正しい関係とは、創造者を単に人間存在の製作者かつ動力因とみなすのではなく、我々の支配者かつ目的因とみなすものである。創造者は我々の意志にとって完全な目的であるべき存在、そして我々を幸福にしうる唯一の存在なのである。
「法と法学の発展」『法学入門』(北樹出版、2019年4月)参考文献 (1)
吉良貴之・蝶名林亮 編『世代間不均衡下の都市倫理』(第一生命財団研究助成報告書)
吉良貴之・蝶名林亮[編]『世代間不均衡下の都市倫理』(第一生命財団研究助成報告書)ができあがりました。研究プロジェクトのページはこちらです。報告書では蝶名林さんと私の論文のほか、何名かの若い方に学術的コラムを書いてもらい、面白い仕上がりになったと思います。非売品ですが、読んでくださる方には差し上げます。
[研究メンバー](所属は執筆時)
代表:吉良 貴之(宇都宮共和大学、法哲学)
分担:蝶名林 亮(創価大学、倫理学)
協力:高木 智史(一橋大学大学院、法哲学)
協力:酒井 光一(オックスフォード大学大学院、考古学)
協力:真殿 琴子(京都大学大学院、イスラーム思想研究)
協力:南部 健人(北京大学大学院、近代中国文学)
協力:高橋 慧 (ミネソタ大学博士研究員、物理学)
[目次]
1.(報告)吉良貴之「概要と実施状況」
2.(論文)吉良貴之「世代間不均衡下の都市倫理」
3.(論文)蝶名林亮「都市保存についての倫理的諸問題:都市環境倫理学的な探求の一事例として」
4.(コラム)酒井光一「都市と景観:オックスフォードの歴史の中に暮らして」
5.(コラム)真殿琴子「アンカラという都市:諸文明の遺産と近代化政策の邂逅のなかで」
6.(コラム)南部健人「ふたりの作家の見つめた北京:老舎とイーユン・リー」
7.(コラム)高橋慧「科学都市の危険性?」
卒業生向けカント読書会
最近は月に1回ぐらいで、卒業生向けの読書会をやっています。
読んでいるのはカントの『判断力批判』で、基本的には岩波文庫を使っていますが、必要に応じてドイツ語や英語も確認しています。1回が約70ページずつ、1年ぐらいかけて終わればいいかな、という感じのゆったりしたペースです。
就職して数年がたっていろいろ慣れてきたところで、また知的刺激を受けたい、という思いに応えられるのは教員冥利につきることです。最近はいわゆる「リカレント教育」というのも重視されていて、18歳人口が減少するなか、大学教育のあり方も見直していかなければなりません。……というと大きな話になりますが、それはさておき、私の勉強にもなるし、同窓会的な感じで楽しいし、というところで、できる範囲で続けていければいいかなと思っています。
これまでの配布資料はこちらに置いてあります。