tkira26's diary

吉良貴之@法哲学です。自己紹介はこちらから: http://jj57010.web.fc2.com

トニ・モリスン『パラダイス』から

アメリカのノーベル文学賞作家、トニ・モリスン氏が88歳で亡くなったとのこと。私が2冊、翻訳に関わったドゥルシラ・コーネル先生はモリスンの小説がお好きで、白人男性に対する他者としての女性たちや黒人たちのイメージの源泉として、モリスンの小説のシーンを印象的に取り上げている。以下は『パラダイス』の幻想的な場面から。既存訳を参考にしたが、訳し直した。

 

はじめたのはコンソラータで、他の女たちもすぐに加わった。世界中の大河のほとりで、大洋の岸辺で、子供たちは大喜びで水浴びをする。乾いた地域での喜びはエロチックとさえいえる。しかしその感覚も熱く甘い雨のなかで踊る聖女たちの陶酔にはかなわない。それほどの歓喜でもなかったならば、女たちはただ笑っていただろう。ここしばらくの悪い知らせや脅迫の記憶は全部、圧倒的な雨が洗い流してくれた。セネカは雨を抱き、ついに国庫建設住宅での暗い朝を忘れた。グレイスの目には、決して汚れてはならない純白のシャツが現れた。メイヴィスはムクゲの花びらに肌をくすぐられ身震いしている。パラスは自分が産んだ弱い子をしっかりと抱いている。その間、雨がエスレーターの上の怖ろしい女や黒い水の恐怖を洗い流してくれた。この庭で自分を見つけ出してくれた神にすべてを捧げたコンソラータは、誰よりも激しく踊った。メイヴィスは誰よりも優雅に踊った。セネカとグレイスはともに踊り、そして離れ、新しくできた泥に飛び込んだ。パラスは赤ん坊の頭から雨のしずくを払いながら、羊歯の葉のように揺れている。(Toni Morrison, Paradise, Knopf, 1997, p.283=大社淑子訳『パラダイス』早川書房、1999年、317頁[訳文変更])。

Consolata started it; the rest were quick to join her. There are great rivers in the world and on their banks and the edges of oceans children thrill to water. In places where rain is light the thrill is almost erotic. But those sensations bow to the rapture of holy women dancing in hot sweet rain. They would have laughed, had enchantment not been so deep. If there were any recollections of a recent warning or intimations of harm, the irresistible rain washed them away. Seneca embraced and finally let go of a dark morning in state housing. Grace witnessed the successful cleansing of a white shirt that never should have been stained. Mavis moved in the shudder of rose of Sharon petals tickling her skin. Pallas, delivered of a delicate son, held him close while the rain rinsed away a scary woman on an escalator and all fear of black water. Consolata, fully housed by the god who sought her out in the garden, was the more furious dancer, Mavis the most elegant. Seneca and Grace danced together, then parted to skip through fresh mud. Pallas, smoothing raindrops from her baby’s head, swayed like a frond.

 

パラダイス (ハヤカワepi文庫) (トニ・モリスン・セレクション)

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トニ・モリスン『パラダイス』を読む―アフリカ系アメリカ人の歴史と芸術的創造性

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自由の道徳的イメージ

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