稲正樹・寺田麻佑ほか『法学入門』(北樹出版、2019年4月)に、「法と法学の発展」という章を執筆しました。内容的には西洋法思想史のおおざっぱな流れですが、歴史を学ぶことの意義とか、法学において学説を学ぶことがなぜ重要かとか、そういったことにも多少触れています。また、思想史を踏まえて取り組むべき、古くて新しい問題への橋渡しといったことも意識したつもりです。
本章で触れた、法思想史に関わる参考文献を以下でいくつか紹介します。入門ということを考慮し、基本的には新書や文庫など、安価で手に入りやすいものを中心にしています。
1. 法思想史の通史的な教科書
- 作者: 田中成明,竹下賢,深田三徳,亀本洋,平野仁彦
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 1997/06/01
- メディア: 単行本
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法思想史の授業で指定している教科書です。古代ギリシャから現代まで、西洋の法思想史の一通りの流れがわかるようになっています。こんな思想家たちがいるんだなあ、とか、これ高校の「倫理」とかの授業で名前を見たことあるけど、「法」についてこんなこと考えていたんだなあ、とか、イメージをつかんでもらえるとよいと思います。
近代以降の法思想史について、平易な語り口で書かれた入門書です。「近代」というものの特徴を「法」という観点から理解するための最初の一歩となります。古代ギリシャから始まるような、いかにもな「歴史!」はちょっと苦手、という方には、この時代から読み始めるのもよいかもしれません。
本章で紹介した概説書はこちらです。重要なトピックについてそれぞれ専門の研究者が最新の動向を踏まえて書いています。19世紀ドイツの法思想に3章を割いているところもすぐれた特徴だと思います。いきなり読んでもよいですし、↑ の教科書を読んで、さらに深く知りたいと思ったところを読むのでもよいでしょう。
西洋法思想が日本でどのように受容されたかを中心に書かれたものです。西洋の思想が日本でどのように受け止められ、どのように「ズレ」ながら独自の発展を遂げていったのかが詳細に述べられています。
ややレベルの高い記述が多く、馴染みのない人名も多く出てくるので中級以上ですが、欧米の思想をただ輸入するだけでなかった、先人たちの格闘のあり方 からは現代でも学ぶべきことが多いはずです。
1.2 世界史が大切
英語で読む高校世界史 Japanese high school textbook of the WORLD HISTORY
- 作者: 本村凌二,シュア
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/04/04
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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法思想史(に限らず法学一般、というか大学で学ぶたいていの学問)では、世界史の知識が不可欠になります。この時代にはこんなことがあった、という程度でいいので、おおまかな知識は持っておいてほしいと思います。これからグローバルに活躍するみなさんとしては、どうせなら英語で学び直しておくぐらいがいいかもしれません。本書は英語の歴史用語に日本語も添えてあってとても便利です。
あと、気付きにくいことですが、歴史の常識ってけっこう変わります。みなさんが高校で勉強した世界史の内容と、いま高校で教えられている世界史はもう、別物だと思ってください。もちろん、そんなにいつもアップデートするのもたいへんでしょうが、10年に1回ぐらいは現行の高校教科書にざっと目を通しておくといいんじゃないかと思います。定番の山川出版社『詳説世界史』は受験用に細かすぎるので、読み物的な性格のある山川『新世界史』や東京書籍『世界史B』などがおすすめです。
2. 法思想史を学ぶ意義
西洋法の歴史で誰もが不思議に思うことのひとつとして「魔女狩り」があります。あるいは、動物を被告にして裁く「動物裁判」といったものもありました。中世の人々はなぜそんなことをしていたのでしょうか。
もちろん、非合理な迷信にとらわれて、といった部分も否定できませんが、それで片付けるのはあまりに現代中心の見方になってしまいます。当時の人々なりの、社会秩序をめぐる一応は合理的な考え方 を理解していくことにより、過去と現在とで「法」がどのように異なり、またどのように共通しているかを考えていくことが大切です。それは現在の世界でも、異なる法文化を理解するにあたって大切な態度といえるでしょう。
「魔女」といったもので表される、西洋中世の人々の怖れの対象がどのようなものであったかが述べられています。 そこから当時の世界観を垣間見ることができるでしょう。
西洋中世で行われていた「動物裁判」について述べたものです。「動物」を被告にして裁判をするというのもわけがわからないと思いますが、考えてみれば、誰が法的な主体になるかというのはそれほど自明なことではありません。 「法」の歴史は、その主体や対象が狭まったり広がったりしていく歴史でもあります。
たとえば今後、動物や将来世代、AI やロボット……に「権利」を認めるべきか?といった話になったとき、法がどのように「伸び縮み」してきたかという歴史はきっと参考になるでしょう。 ほかに関連して、以下など。
- 作者: ウルリッヒファルク,マティアスシュメーケル,ミケレルミナティ,Ulrich Falk,Matthias Schmoeckel,Michele Luminati,小川浩三,福田誠治,松本尚子
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2014/04/11
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2.1 日本ではどうだったか
西洋中世ではいろいろと不思議な裁判が行われていましたが、日本でも同じようなものはいくらでもあります。本書は、焼けた鉄を握って火傷をしなければ無罪、といった裁判のやり方である「神判」を扱ったものです。
現代の目から見れば理解しがたいものですが、これもたとえば、裁判における「証拠」がどういうものであるべきか、といった普遍的な問題につながっています。現代日本の司法では「自白偏重」がしばしば批判されますが、「自白は証拠の女王*1」という現状も、後世の人々からはひどく野蛮なものに見られるかもしれません。
(以下続く)